《3》整音作業を施しても変化しない音色要素の説明

                 静体要素 F,R,e,Π

F 香りの種類を表す係数。

 ここでFを「係数」と表記したが実際には量とか大きさで感じるものではなく、あくまでも「香りの種類」

を表す記号である。このFはそのブランドに本来備わった「芳香」を表す。これは楽音としての倍音と楽音

でない差音の倍音の構成比率によって決定される。言い換えれば鉄骨の設計でほぼ決定されてしまうが、鉄

骨の組成含有比率、響板の材質、その他の設計要因によっても変化する。この F はハンマーヘッドの品質、

いかなる整調、整音によっても変化する事はない。世界の名器と言われるピアノはこの Fをかたくなに守り

続けており、特にヨーロッパのものはブランドごとに強烈な個性を持っている。また原産国別にFを調査し

てみるとその傾向がその国民性にぴたりと一致しているのが実に面白い。ここでもう少し詳しく F について

考察してみよう。

R 香りの品位を表す係数。

 フローラル系の香水が二種類あったとする。一つは本物の花びらから抽出したもので、もう一つはベンゼ

ン核を有する芳香属の合成品とする。どちらも同じ種類の香りを有するがその香りの品位は全く違う。高品

位になるほどRの値が大きくなるものとする。このRの値の上限はハンマーヘッドの品質によって決定され

る。先端まで強度の硬化材で固めてしまったような安物のハンマーヘッドをいくら整音作業に手間をかけて

も高品位の香りを作り出す事は出来ない。先端はあくまでも毛足が長く高密度で張力が必要である。

e 開口部の真円度を表す係数。ユニゾンの合わせ具合による音の変化を表す要素。

 ユニゾンの狂いがひどい場合、開口部は楕円に変化し、楕円が時間と共に潰れる。eは値によって静体要

素と負に働く動体要素とに分かれる。ユニゾンはぴったり合っているように聞こえる範囲がかなり広く、微

妙な調整で音楽的表現が大きく変わってしまう。従って整音前にe=1、つまり開口部を真円にしておくべ

きで整音後各自の感性で好きなeの値を決めればよい。ただしeとRは極めて密接な繋がりがあるので音の

伸び方ばかり気にしてRを全く考慮に入れないユニゾン調律は関心しない。

Π(a,b,c,d,〜)

 F,R,e 以外の整音作業をしても変化しない静体要素群の集合を表す。この中には重要な音色要素が多

数含まれる。

                    動体要素 Σ

Σ(a,b,c,d,〜) 

 整音作業によっても変化しない動体要素群の集合を表す。弦の張力が低く設計されたピアノの場合 ff で

打鍵後数セント下がるものがある。この現象は時間と共に変化するのでΣ群にいれる。

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