《8》要素間の関係式と導入式

 音色要素一覧表をもとに要素間の関係について考察してみよう。この関係式は長年の経験から得られた、

いわゆる「経験式」であるため各人の主観により若干異なってくると思う。

 今回は整音を主体として音色の議論をしているので、整音作業によって著しく変化する固有の性格を持っ

た静体要素θ〜f、及び動体要素v、それに私には解らないその他の静体要素群 Γの八個の音色要素を提示

した。整音要因要素群をV、として定義すれば(θ〜f,v,Γ)∈V、即ちV∈(θ〜f,v,Γ)となり、

要因要素群 O〜Φ、それに負の要因要素群Dには一切影響を受けない。厳密には各要因要素群に依存する

音色要素を一つ一つ定義し、考察しなくてはならないが今回私が提示する式は整音作業によって変化する音

色要素群とV以外の要因要素群によって変化する音色要素のうち性格の似たものは前記音色要素と同一要素

とみなし、一緒にした。ここでは最も重要な関係式のみを表記する。記号∈(エグズィステンス)がしばし

ば出てくるが、ここでは∈を「影響をうける」という意味で使用する。例えば A∈(B,C) の場合、「A

の要素はB、C二個の要素に影響をうける」という事を意味する。

《T》 要素間の関係式

@ 静体要素間の関係

  θ∈(r,ε) r∈(θ,ε) ε∈(r,θ) f∈s s∈f

  dはθ、r、f、s、εの影響を殆んど受けない。(注一)

A 静体要素と動体要素間の関係

  v∈(θ,r,ε) (注二)

(注一) (注二) 各要因要素群を考慮に入れるとこの式は多分に変化するがここでは整音要因要素群Vのみを

考慮に入れた場合、つまりハンマーヘッドの硬度分布に因るものだけを表記した。

B F、R、e、Πと静体要素、動体要素との関係

  F、Πは静体要素、動体要素の影響を受けない。

  R∈(θ,s,f,e ) ( 注三 )

(注三)Rはハンマーヘッド先端に硬化材を塗ったり針を刺せば幾らでも値は小さくなるが逆にいくら丁寧な

整音作業をしてもハンマーヘッドの品質を変えないかぎり上限の値はある点で飽和してしまう。

C 静体要素と固定要因要素との関係

  r∈(O) s∈(O) d∈(M,A)

  f∈(O,A,I) ε∈(M,O)

D 動体要素と固定要因要素との関係

  v∈(O,M,I,D)

E 静体要素F、R、e、Πと固定要因要素との関係

  F∈(O,M) R∈(e,O,M,A,H)

  e∈(R,T) Π∈(O,M,A,H,I,Φ)

F 負の静体要素と固定要因要素との関係

  N∈(D,O,M) C∈(D,O,M)

G 負の動体要素と固定要因要素との関係

  δ∈ (D,M) e´∈(T,A)

《U》関係式から導かれる導入式(この導入式は要因要素群に依存する音色要素を表したものである)

   V∈(f,r,s,ε,d,θ,v)

   O∈(f,r,s,ε,v,F,R,Π,C,N)

   M∈(d,v,δ,ε,F,Π,C)

   A∈(f,d,ε,e´,R,Π)

   H∈(R,Π)

   T∈(e,e´)

   I∈(f,v,Π)

   D∈(v,ε,δ,N,C )

式が面倒になるのでここではΓ、Δ、Σ、Φ、Ω群の集合を省いた。

 ここで余談になるがこの導入式をもとに例えば設計要因要素群Oについて考察してみよう。O、即ち設計

を変更することによって音色が変化する、言い換えれば音色なり音質の改善が期待される要素はf、r、s、

v、F、R、Π、C、N である。逆に音色なり音質の改善が期待出来ない音色要素は θ、ε、δ、d、e と

なる。我々調律師が設計変更出来るよい例として浜田光久氏が提唱しておられる浜田式独立アリコートにつ

いて考えてみよう。独立アリコートにすることによって物理学的にはどのような変化が起こるのであろうか。

@ 可聴周波数を超えた楽音としての倍音が発生する。(r、f、s、R、Nの改善)

A 楽音同士が共鳴を起こす。(vの改善)

B 変更前に較べ、可聴周波数を超えた楽音としての倍音が直接鉄骨に伝藩する。これにより音波の質が変

  わり、音がより遠くへ届く。(Π の要素の中の一つが改善)

 我々が感知出来るものだけでもr、f、s、R、N、v、Πの七個の音色要素が良い方向へ変化する。整音作業

とあわせるとθ、d、ε が加わり実に十個の音色要素が改善されることになる。整音作業と独立アリコートへ

の設計変更を同時に行う事により如何にピアノが変身してしまうかという事がよくお解り頂けると思う。し

かし独立アリコート方式への設計変更は総てのピアノに対し摘要しても良いかどうかと言う点にいて考えて

みる必要がある。もともとアリコート方式でないピアノを改造する場合、次の点に注意しなくてはならない。

楽音としての倍音と楽音でない差音の倍音の構成比率が根本的に変化してしまうのでF、即ち香りの種類が

変化してしまう。従って世界的な名器であえてアリコート方式を採用しない事によって音作りが成されてい

るピアノに改造を加わえることに関しては私はあまり賛成できない。

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