整音(Voicing)について
このページでは調律師以外の方には馴染みのない専門用語 「整音」についてご説明致します。
英語では「Voicing」と言います。まずは手っ取り早く最も解り易い例を用いて簡単にご説明いた
しましょう。一人の人が色々なジャンルの曲を歌ったとしましす。歌曲、シャンソン、ジャズ、演歌、
浪曲、小唄、謡曲、等、、。果たしてどんな声の出し方で歌ったのでしょうか。恐らくその人はいつ
も耳にしているその道のプロの声楽家の声の出し方を真似して歌ったに違いありません。物まねの上
手な人であったなら聴いている人は違う人が歌っているものと勘違いするでしょうね。しかし実際に
は別人のような声でありながら一人の人が歌っているのです。違うのは声が出るときの声帯の形と息
の出し方、それと大事な事は体全体が共鳴しているかしていないか、と言うことです。勿論細かい事
をいえばその出し方の違いは無数にあります。
ジャンルの違うそれぞれの歌はその曲が生まれた国の国民性の違い、そしてその曲がどのような人
々によって、またどのような時に歌われるのかによって全く発声法が異なってきます。それこそ「無
数」といってよいほどの発声法が世界には存在します。これと同じ事が楽器の世界にもあてはまりま
す。
人の体をピアノ本体と考えてください。そして声帯を弦を叩くハンマーヘッドと考えてください。
そしてもう一つ、息を吐き、声にする行為を鍵盤を叩いて音を出す行為と考えてください。ピアノは
本来西洋音楽を表現する為の楽器でその発達過程を調べてみると西洋の作曲家達が作曲した音楽と切
っても切り離せない深い関係にあります。そして殆どのクラシックの作曲家がピアノの為の作品を残
しております。勘の良い皆様ならもうお解りでしょうがピアノは西洋音楽的な発声法に基いた 音(声)
の出し方をしなければ西洋音楽の表現が出来ない楽器なのです。
言い換えれば西洋音楽的発声法に基いた「響きの条件」というものがすべて備わったピアノだけが
ピアノ音楽というものを表現できるのです。いくらテクニックと音楽表現が上手でもピアノが勝手に
地声で歌いだしてしまったなら音楽として伝わりません。それはピアノ音楽らしき騒音にすぎません。
「ピアノに西洋音楽的な発声をさせる?ピアノがそんな人の声みたいに音色を変えられる訳ないじゃ
ないか・・・」こう思われても仕方ないですね。そんなこと耳にした事ありませんものね。しかしで
す。これが高度な整音技術をもってすれば如何様な音色、音の響きでも自由自在に作り出す事が出来
るのです。
ピアノの整音について詳しく説明すると分厚い一冊の本になってしまいます。それほど整音という
のは音楽的にも芸術的にも奥の深い分野であり、調律技術者にとっては生涯をかけてでも極めたい最
終的な技術分野、といっても過言ではありません。私自身、何者かに執りつかれたように十年以上に亘
って試行錯誤を繰返しながら数多くのテクニックを磨きノウハウを発見してまいりましたが、これで
よいという到達点というものは未だに見えませんし、永遠に見えてこないかもしれません。何故なら
ばもっと美しい響きを作りたい、と言う欲求が出てくるからであります。 夢の中では現実にはあり
えない「天国的」と言うか「悪魔的」と言うか、それこそ魂を奪われそうな素晴らしい音色でショパ
ン、リスト、ラヴェル、フォーレがいつも聞こえて来ます。
GROTRIAN Full ConcertGrand の整音風景 ハンマーヘッドの硬度分布調整作業